
書籍の紹介

顔の考古学 異形の精神史
著者:設楽 博己(したら ひろみ)- 選定理由
本書は、考古資料の中でも、その用途が明らかになっていない縄文時代の土偶や仮面、弥生時代の顔のついた土器、古墳時代の人物埴輪など、特異な顔の表現を取り上げ、古代の人々のメッセージを明らかにしようとするものです。
節分でおなじみの「鬼」や、日本社会において負のイメージが強い「イレズミ」、また縄文の美の象徴として広く人気がある「土偶」など、日本人に馴染みのある資料を取り上げて、その意味と果たした役割、変遷が検討されており、一般の読者が興味をもって読み進めることができます。また、これまで断片的に評価されてきた「顔」資料について、考古学の基礎研究を踏まえたうえで、総合的に検討した点が高く評価できます。
こうした「異形の顔」の分析を通して、著者は、日本社会の大きな変化を弥生時代に求め、この時代から戦争や格差社会、グローバリゼーションが始まり、現代社会が抱える課題につながっていると説きます。考古遺物の分析から、広く日本社会の課題までも導き出す本書は、歴史資料が果たす役割や可能性を示したもので、古代歴史文化賞大賞にふさわしい作品です。- 作品の概要
縄文時代の土偶をはじめ仮面・埴輪・土器など、律令時代までの造形物に見られる「鬼」や「イレズミ」といった特異な顔の表現について、その意味と果たした役割、変遷を論考する。そして、各時代の顔の分析・比較から、著者が専門とする弥生時代社会の特色を論じ、さらには現代社会が抱える課題にも通じることを指摘する。
- 情報
- 初版年月:令和3年1月1日 出版社: 吉川弘文館 本体:1,800円
- 著者のプロフィール
1956年、群馬県生まれ
東京大学名誉教授
博士(文学)
専門は日本考古学
著書に『弥生再葬墓と社会』(塙書房)、『縄文社会と弥生社会』(敬文舎)、『弥生文化形成論』(橘書房)などがある。
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