書籍の紹介
アイヌ学入門
著書:瀬川拓郎(せがわ たくろう)- 内容紹介
単一の性格で捉えられがちなアイヌ民族論を複合的な視座から再構成し、アイヌに留まらず広く日本の文化や民族の形成などについても考えさせる作品。
- 情報
- 初版年月:平成27年2月 出版社: 講談社
- 選定理由
本書は、アイヌ文化が、他地域との交流や時代によって変容してきた、複合的な文化であることを、考古学的な研究成果を中心に、学際的に検討し、時代を通してわかりやすく紹介した書です。
これまでの単純なアイヌ観に対して、アイヌ文化が複合的に形成され、変容を続けてきたことを、具体的な資料に基づいて論理的に説明しています。また扱う資料は、考古資料はもとより方言、習俗や伝説、現代のアイヌの証言など多様で、関係する地域も本州からサハリンに及ぶなど、広い視野から分析がなされており、読者も飽きることなく読み進めることができます。
そして、特定の時代に限定されることなく旧石器時代から現代にいたるまで、通史的にアイヌ民族の形成と展開を記述した点は、高く評価されます。
また、現代に結びつけた、平易な語り口や、地図や復元図を多用することによって、北海道を中心とした地理やアイヌ文化に詳しくない人でも容易に理解できるような工夫がなされています。
本書が提起した、多様性を持つダイナミックで斬新なアイヌ像は、従来の研究になかった豊かな民族の姿であり、今後のアイヌ研究に対する問題提起となるものです。そして、広く日本の文化や民族の形成、また古代文化がどのように現在に継承されているのか考えさせられる、古代歴史文化賞大賞にふさわしい優れた作品です。
感想を投稿する
感想
「アイヌ学入門」の感想
日本は単一民族国家ではないといわれながら、私たちはアイヌという民族のことをあまりに知らな過ぎる、それを思い知らされる一冊でした。アイヌの歴史を原始から現代まで様々な切り口で取り扱いながら、彼らが単なる先住民ではなく、不断に和人やオホーツクなどと交流、交易を行い、おたがいに影響を与えあいながら、独自の文化を作り上げたことを述べていました。古代的な文化が近代にまでどのようにアイヌの文化に引き継がれたかなど、自分にとって新しい世界を知ることができ面白く読めました。
この本を読んで、ガツンと頭を殴られたような気持になった。私の固定観念を打ち砕き、新しい視点を提示してもらえて、刺激的だった。つねに驚きと発見の連続だった。
民俗的な考察のところで、アイヌの状況を書いた近世のいろいろな史料・書物を使っているが、書誌学的な手続きを経ないとなかなか難しい点があると思う。そのあたりがどこまでされているのか、学術的に手堅いのかどうかという点で若干疑問に思う点があった。
この投稿へのコメント