第7回古代歴史文化賞

第7回 大賞作品

「古今和歌集」の創造力/鈴木 宏子

「古今和歌集」の創造力

著者:鈴木 宏子(すずき ひろこ)
選定の理由
本書は、日本最初の勅撰和歌集である『古今和歌集』を、紀貫之が記した仮名序冒頭にみえる「こころ」と「ことば」、そして歌に共通する表現・着想などの「型」という3つのキーワードから紐解いていきます。その過程で『古今和歌集』に収められたそれぞれの歌はもちろんのこと、歌の配列や巻の構成にいたるまで、編纂者である貫之が緻密に計画し、体系だったまとまりある作品として『古今和歌集』を完成させたことを明らかにしています。また、本書掲載の『古今和歌集』の歌には、理解を助けるための過不足ない現代語訳がつけられているだけでなく、「百人一首」に収められているものが多く採用されており、すぐれた文章力によって、一般の読者が興味をもって読み進めることができる著書となっています。 『古今和歌集』が日本の和歌の一つの定型となり、またそれによって生み出された感性や感覚などのさまざまなものが現代にも受け継がれていると説く本書は、単なる『古今和歌集』の概説書や注釈書に留まらず、日本文化論も射程に入れた書籍でもあるといえ、古代歴史文化賞大賞にふさわしい作品です。
出版社:NHK出版
発行:平成30年12月
本体:1500円
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第7回 優秀作品賞

埋もれた都の防災学 都市と地盤災害の2000年/釜井 俊孝

埋もれた都の防災学 都市と地盤災害の2000年

著者:釜井 俊孝(かまい としたか)
選定の理由
本書は、古代ローマから現代日本までという広い地域と時代を対象として、著者が専門とする地質学・地盤工学を基本に、考古学や文献史学の成果も踏まえ、開発とそれにともなう植生の変化などによってもたらされた地盤の改変が、地震や河川の氾濫による被害を大きくしたことを明らかにするとともに、時には歴史そのものに大きな影響を与えたことにも言及しています。 近年、地震や地すべり、洪水などの大規模災害が世界各地で多発し、減災や防災が叫ばれるなか、災害と古代以来の人間の開発の歴史を説く本書は、現代的問題や関心に応える書籍でもあり、優秀作品賞にふさわしい書籍です。
出版社:京都大学学術出版会
発行:平成28年9月
本体:1800円
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古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで/河上 麻由子

古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで

著者:河上 麻由子(かわかみ まゆこ)
選定の理由
本書は、倭の五王の時代から唐滅亡後までの約500年間におよぶ日中交渉の歴史を、アジア全体に目配りして解き明かします。そのなかで「天下」は自己中心の帝国的世界観のあらわれではなく、単に支配領域を指すだけで、5世紀末から6世紀はじめの倭は王位継承が不安定な状況で使者の派遣を停止したにすぎないこと、有名な「日出ずる処の天子」について仏典を典拠にしており、仏教後進国の倭王が仏法を広める国王の意味の「天子」を称したことに隋の煬帝が不快感を示したにすぎないことなど、通説と異なる新見解を説いています。 古代日本の対外交渉を、中国側からの視点も取り入れ、大きな視野から見直そうとしているもので、その意欲的な試みのなされた本作品は、優秀作品賞にふさわしい書籍です。
出版社:中央公論新社
発行:平成31年3月
本体:880円
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縄文時代の歴史/山田 康弘

縄文時代の歴史

著者:山田 康弘(やまだ やすひろ)
選定の理由
本書は、居住形態・生業形態・集団構造・精神文化の4つに着目し、DNA分析や炭素14年代測定などの理化学的成果、世界各地の民族事例も踏まえ、最新の発掘・研究成果を取り入れながら、1万年以上にわたる縄文時代・縄文文化が画一的なものではなく、顕著な地域差、時期差をもっていたことを明らかにしています。そのなかで、縄文の美の象徴とされる土偶が祈りを捧げなければならない環境にある不安の裏返しでもあるという指摘などは、従来の一面的な「縄文ユートピア」理解に異を呈するもので、本書の特徴のひとつといえます。 幅広い知見をもとに書かれた、縄文時代の概説書である本書は、縄文時代の最新の成果を収めた研究書でもあり、優秀作品賞にふさわしい書籍です。
出版社:講談社
発行:平成31年1月
本体:920円
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風土記 日本人の感覚を読む/橋本 雅之

風土記 日本人の感覚を読む

著者:橋本 雅之(はしもと まさゆき)
選定の理由
本書は、特有の時間の観念と「村里」単位の空間という二つの切り口から、国家レベルの歴史を記す『古事記』や『日本書紀』とは異なる地誌「風土記」の独自性と魅力を語るものです。「風土記」が行政文書であることを確認したうえで、統一的で通史的な記紀とは違い、各地方の豊かな伝承や文化を記すものであると論じ、地方目線の「風土記史観」の重要性を指摘しています。 このような視点で正面から「風土記」を取り上げたものはこれまでになく、優秀作品賞にふさわしい書籍です。
出版社:KADOKAWA
発行:平成28年10月
本体:1600円
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※五十音順

候補作品一覧

第7回古代歴史文化賞の候補作品として、下記の5作品を選定いたしました。 11月6日(水)午前10時より帝国ホテル東京にて選定委員会を開催し、下記の作品の中から大賞1点、優秀作品賞4点を選定します。 同日午後2時より同ホテルにて発表及び賞贈呈を行います。
書名著者名
出版社名
作品の概要著者のプロフィール
埋もれた都の防災学
―都市と地盤災害の2000年―
埋もれた都の防災学<br />
―都市と地盤災害の2000年―
釜井かまい俊孝としたか
京都⼤学学術出版会
古代から近現代までの開発の歴史や社会的背景を、地盤災害に焦点をしぼり、丁寧に解説する。多分野連携での新見解も盛り込みながら、地盤災害がその土地と人間の歴史を反映すると説く本書は、近年とみにいわれる防災について、ヒントを与えてくれる書である。1957年、東京都生まれ
京都大学防災研究所教授
博士(工学)
専門は応用地質学、地盤工学
著書に『斜面防災都市』[共著](理工図書)、『地震で沈んだ湖底の村』[共著](サンライズ出版)、『宅地崩壊』(NHK出版)などがある。
「古今和歌集」の創造力

「古今和歌集」の創造力
鈴⽊すずき宏⼦ひろこ
NHK出版
「こころ」「ことば」「型」という3つのキーワードをもとに、『古今集』の歌、歌集全体としての特徴を読み解こうとする。特に選者であり、歌人でもある紀貫之の役割を重視し、歌の「配列」に着目する点は、『古今集』研究に長年にわたって取り組んできた著者ならではといえる。単なる注釈書ではない、『古今和歌集』の世界に読者を導く書である。1960年、栃木県生まれ
千葉大学教育学部教授
博士(文学)
専門は平安文学、和歌文学
著書に『古今和歌集表現論』、『王朝和歌の想像力』(ともに笠間書院)、『和歌史を学ぶ人のために』[共編](世界思想社)などがある。
古代日中関係史
―倭の五王から遣唐使以降まで―
古代日中関係史
河上かわかみ⿇由⼦まゆこ
中央公論新社
5世紀の倭の五王の時代から菅原道真による建議で遣唐使派遣計画が白紙にされた9世紀末までの日中交渉の歴史を、著者の専門とする仏教を切り口に紐解く。東アジアのみならず、アジア全体を視野に入れ、日中関係を概観し、遣隋使派遣による日本の対等関係指向などの通説を乗り越えようとする試みが本書の特徴である。1980年、北海道生まれ
奈良女子大学文学部准教授
博士(文学)
専門は日本古代史
著書に『古代アジア世界の対外交渉と仏教』(山川出版社)、『東アジアの礼・儀式と支配構造』[共著](吉川弘文館)などがある。
縄文時代の歴史

「古今和歌集」の創造力
⼭⽥やまだ康弘やすひろ
講談社
1万3000年にもおよぶ縄文時代を、画一的ではなく、列島内で地域差、時期差をもちつつ展開したとして文化の多様性を述べる。DNA分析などの理化学的成果にも目配りしながら、気候変動との関わりのなかで縄文時代を論じる本書は、現代と比較し縄文時代を「ユートピア」と美化する傾向を否定する、縄文時代の概説書である。1967年、東京都生まれ
国立歴史民俗博物館教授・総合研究大学院大学教授
博士(文学)
専門は先史学
著書に『人骨出土例にみる縄文の墓制と社会』(同成社)、『老人と子供の考古学』(吉川弘文館)、『縄文人の死生観』(KADOKAWA)などがある。
風土記
―日本人の感覚を読む―
「古今和歌集」の創造力
橋本はしもと雅之まさゆき
KADOKAWA
『古事記』や『日本書紀』を中心とする国家レベルの歴史ではなく、「風土記」の記す地方目線(「風土記史観」)を通じて、多様な文化や神話・伝承を支えた村里レベルの歴史を探ろうとする。国文学者の視点から、「風土記」から読み取ることができる古代の人々の心性にも触れ、「風土記」の魅力を伝える。1957年、大阪府生まれ
皇學館大学現代日本社会学部教授
博士(文学)
専門は国文学、神話学
著書に『古風土記の研究』(和泉書院)、『「風土記」研究の最前線』(新人物往来社)、『引き算思考の日本文化』(創元社)などがある。

第7回古代歴史文化賞について

1.目的
島根県・奈良県・三重県・和歌山県・宮崎県の5県共同で古代歴史文化に関する優れた書籍を表彰することを通して、国民の歴史文化への関心を高め、豊かな歴史文化に恵まれた各県の交流人口の増加を促すとともに、各県民の郷土への自信及び誇りを醸成することを目的とする。
2.対象書籍
古代歴史文化に関する書籍で、選定の直近3年度(平成28年4月1日から平成31年3月 31日)に初版で出版され、書店等で販売されているもののうち、次の要件を概ね満たすもの。
  • (1) 日本の古代に関して執筆されている。(※1,2)
  • (2) 一般読者にとって分かりやすくおもしろい。
  • (3) 学術的基盤に基づいている。
  • (4) 単著を基本とする。
なお、次の書籍は対象外とする。
  • (1) 専門家向けの学術書、専門書
  • (2) 空想的なもの、フィクションのもの
  • (3) 漫画(ただし、分かりやすくなるようにページ中に挿絵を入れている程度の書籍は対象とする。)
  • (4) 写真集
  • (5) 雑誌等
※1 古代に関する事柄が記述されている書籍であれば分野は問わず幅広く対象とする。 たとえば学問分野では、考古学、歴史学、文化人類学、民俗学、歴史地理学、文学、国語学、美術史、建築史、自然科学などのほか、学際的な視点で執筆された書籍も対象とする。 ※2 地域を主題とした書籍であっても全国の動向との関連が分かるものなどは対象とする。
3.受賞候補書籍の推薦
専門家、有識者などからなる推薦委員及び歴史文化に関連する書籍を発行する出版社が推薦する。
4.受賞書籍の決定
古代歴史文化賞選定委員会において受賞書籍(大賞1点、優秀作品賞4点)を決定する。
5.今年度のスケジュール
  • 10月11日(金) 候補作品発表
  • 11月 6日(水) 第2回選定委員会開催、受賞作品の発表および表彰式(東京)
  •  2月 8日(土) 表彰記念イベント(東京)
  •  3月15日(日) 表彰記念イベント(島根)
6.実施主体
島根県/奈良県/三重県/和歌山県/宮崎県

選定スケジュール

第7回古代歴史文化賞選定スケジュール